神様がくれた休日~真話か偽話か空耳か~

フィクションともノンフィクションともつかない一人話を 時には まじない交え思いつくままツラツラと・・

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Posted by 空耳ロバ on

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◆ 盆の残り香 ◆

Posted by 空耳ロバ on

盆の送り火を終えた私は墓参を兼ねて見舞いに行く知人宅へ急いでいた。
神奈川県の水郷田名から高田橋を渡り相模川の中流から上流に向かっていた時だった。

「来たね。待っていたよ・・・」

低くしっかりとした太い声。
いつもの神様の声ではない。
『地獄の釜の蓋が開く』日は16日だ。
じゃあ誰だ?
辺りを捜すが声の主らしき人影は見当たらない。
再び歩き出す・・・

「おい!」先ほどと同じ重低音の美声。

「誰?」私は身体を一回転させ、辺りを見回した。

やだぁー!!怖い!!!

私は慌てて木箱から盆の飾り付けにお供えした紺色、橙色、白色のカラーボールを取り出し、悪鬼退散のまじないを唱えながら握り締めた。


*厄・悪鬼退散のまじない
『のうまくださんまんだ ばざらだん せんだまかろしゃだそわたや うんたらたかんまん』
この真言を最低3回以上できれば7回程度唱える。効きますよ~!


『そんなに嫌わなくてもよかろう、わしじゃよ、わし』

?誰?? 
何処?どこ?

『ここじゃよ!
 カーッ!!!!

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     東京 つつじヶ丘「金龍寺」の閻魔大王様

「うわぁッ!!!!!!」私はその場に倒れ、気を失った。




盆送りの日も終わり、魚市場にも活気が戻って来た。
行商をしていた与助はいつもよりも多くの魚を仕入れたが、その日に限って売れ行きが悪かった。

「少し上流の方まで足を伸ばしてみるか」

与助は、水郷田名から田名へ抜け、相模川に架かる高田橋を渡り、対岸の葉山島(同じ神奈川県ですが、逗子の葉山ではありません)から小沢へと足を伸ばした。
そこには、一の釜、二の釜、三の釜と呼ばれる場所がある。

どの釜も深い淵から青碧色の水に変わっている。
吸い込まれたら二度と上がっては来られないような不気味で怪しげな釜だ。
与助は初めて見るその淵にすくみながらも怖いもの見たさに覗き込んでいた。


『そこに近づいてはいけませんよ。』

与助は不意に声をかけられ、ビクッとして振り返ると、いつの間に現れたのか見知らぬお婆さんが立っていた。

『今日は魚はあまり売れなかったでしょう。』

「ええ、弱っているところです。」
与助は天秤棒を外し、桶の蓋を開けた。

お婆さんは、そんなこともお構いなしといった様子で続けざまに言った。

『そうでしょうとも。
今日はまだ8月17日ですから。
ほら、お前様が今、覗き込んでいた、釜。
一の釜、二の釜、三の釜と釜が三つあって、
前の日の16日は地獄の釜の蓋が開く日だから、絶対に川遊びをしたり、
殺生をしてはならないと、この辺では昔から言い伝えがあるんですよ。

それでも16日の地獄の釜が開く日に、暑いからと、川遊びをしている子供達は皆、引っ張られてしまって。
随分と亡くなってるんですよ。
お盆が過ぎたからといっても、浮ばれない霊はまだそこらに残っていなさる。
盆の残り香がそこら中に漂っていますからね。

お前様には匂わないか?

だから、無事に帰りたければその釜には近づかないことですよ。
ましてや、そんな、生臭物を持っておいでになる。
お前様も引っ張られないうちに早くお帰りなさい』

お婆さんはそう言って、売れ残っている沢山の魚が入った桶を指差した。

「だけれど、こんなに残っていては気の毒ですね。どれ、一つ二つ、貰いましょうか」

「助かります、ありがとうございます。
もう今日はこれで最後にしますんで、3尾で六文ってところでどうでしょう」

『六文?五文しか持っていないから、2尾にしておくよ』

「よっし!いい話、聞かせてもらったお礼だ!
3尾で五文に負けとくよ、毎度!!」

与助はいつものように威勢良くお礼を言い、天秤棒を肩に掲げながら
「お婆さんの家はこの辺りなんですかい?」
・・・・既におばあさんの姿はなかった。

あれぇ?何処行っちゃったかな?
「お婆さ~ん、ありがとう。また来るからねぇー」
与助はまだその辺りにいるであろうお婆さんに聞こえるように大声で叫び、今来た道を引き返した。

『日の暮れないうちに迷わずお帰りよ』
お婆さんの手には、今買ったばかりの3尾の魚と、一文銭が一枚、握られていた。


与助は、一の釜を過ぎ、二の釜を通り越して、三の釜を過ぎようとした時、深碧色の水面にチラチラと泳ぐ魚を見つけた。
「近づいてはいけない」そうお婆さんに聞いていた与助だったが、相模川は、鰻や鮎が豊富に棲む川だ。

「殺生するわけじゃない。何が泳いでいたのか少し見るだけだ」
三の釜に近寄り覗き込んだ。

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「うあー!!」
腰を抜かさんばかりに仰天した与助は天秤棒を担いで山道を転げるように走り出した。

『だから近づいては駄目だと言ったろうが・・・』

高田橋を渡り田名から水郷田名に向かう道は登り坂の山道だ。
慣れた山道だったが、全速力で走った与助は売れ残りの入った桶がやけに重く感じた。
桶の蓋を開け、「魚が2,3匹入っているだけでこんなにも重く感じるものか・・」
先ほどまで明るかった山道は、日暮れと共に薄暗くなってきた。
「いけないな、急がないと。」

いつもよりも遠出をした与助の足は棒のように固くなり、魚桶は石のように重たい。
桶を片一方に寄せ、天秤棒を杖代わりに歩いた。
疲れきった身体は思うように前へ進まない。
日はすっかりと落ち、鼻をつままれても解らないくらい、辺りは真っ暗だ。
「時間がかかってしまったな・・あぁ早く帰らないと・・・・」

・・・・・おかしい。。。。

ついさっき、桶を一方に寄せようと、木にくくりつけた縄がある。
腰を下ろした石がある。
歩き出した場所にまた戻ってきている。
先ほどから何度も同じところをグルグルと回っていたのだった。
この辺りの山にはきつねが度々、人を化かすと有名だ。

「やられた!きつねに化かされた!」
そう言えばさっき会ったお婆さんが「そんな生臭物を持っておいでになる」と言っていた。
与助は、縄をくくりつけた木の傍の石に残った魚を置いて帰ることにした。

石の上に魚を置き、天秤棒を再び肩に掲げようとした時、はずみで枝に天秤棒がぶつかり、縄をくくりつけた木の枝が折れた。
今まで、木に茂った葉で見えなかった脇道と、その傍らに石造が顔を出した。

「あっぁ」

       20120817225737989s_20121220180801.jpg
          「奪衣婆」


金龍寺 閻魔大王台座下に陳列されています

その石造は、さっき山で会い、魚を買ってくれたお婆さんだった。

『ようやくわかったようだね。
お前様に六文、渡してしまったら、私の役目は無くなってしまう。
私は、六文銭を持たずに此方の川を渡った者の着物を奪い、その着物を木に下げて、その者の罪を閻魔大王様に見てもらわなければならないからね。
それに六文銭は、亡くなった時に必要な銭だから、お前様にはまだ必要なかろう・・・
お前様の家はこの道を上がればもう直ぐじゃ。
気をつけてお帰り。』



『すまん、すまん。脅かすつもりはなかったんじゃ。おい、大丈夫か?そろそろ目を覚まさんか。』

・・・・・気を失っていた私は、「白檀」の香に目を覚まし、うつろうつろしながら時計を見た。
まだ、1分程度しか時間はたっていなかった。
だが、握り締めていた3つのカラーボールはいつの間にか消えていた。


「与助さん、夕飯にしましょう」
「父ちゃん、これなぁに?
すっごく弾むよ・・・ 紺色、橙色、白色もあるよ。」



-------------------------- お し ま い -----------------------

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