神様がくれた休日~真話か偽話か空耳か~

フィクションともノンフィクションともつかない一人話を 時には まじない交え思いつくままツラツラと・・

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◆まやかし1

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あの日もこんな霧の深い夜だった。

このところの残業続きで毎晩、終電で帰宅していた僕はあの日も、やはり終電に乗っていた。
途中、ポイント故障が発生したため、いつもより猶のこと遅くなり、自宅最寄り駅に着いたのは午前1時を回っていた。
駅に降りると、辺りは一面、真っ白な濃霧に覆われ、家々の明かりがかろうじて見えるくらいだ。

    霧の夜

「参ったな・・・ただでさへ物騒なのに」

僕の住むアパートは駅から少し離れた場所にある。
そのせいで、駅には沢山の人が降りるが自宅近辺につく頃には人通りは殆どない。
静かではあるが夜間は男の僕でも少し物騒に感じる。
僕は早足で自宅へ向かった。
いつもの角を曲がると自宅のアパートが見えた。
「ああ、もうすぐだ」少しホットした。

濃霧で前がよく見えないためか、いつもより緊張して歩いていた僕はホットしたところで咽喉が渇いた。
角を曲がったすぐの場所にある自動販売機でジュースを買い、アタッシュケースに入れ、顔を上げた。

「あ・・あのアパート、誰か引っ越してきたんだ。」

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僕の住む部屋から見える、斜め前に建つ長いこと空家だったアパートの2階角部屋に明かりが点いている。
残業で帰宅が遅く、暗がりの中を帰ることの多かった僕は、深夜に灯る明かりは一つでも多い方がありがたい。
「どんな人が越してきたんだろう、こうして夜には必ず明かりが灯る生活をしている人ならいいな・・」
漠然とそんなことを思いながら、濃霧の中、再び歩き出した。

自宅アパート前に差し掛かった時、『あの・・・こんばんわ。』

不意に声をかけられた僕は、びくりとしながら振り返ると、黒髪のストレートヘアがよく似合う美しい女性が立っていた。
「あ・・はい、、、」

『驚かせてしまったようで、ごめんなさい。先ほど、ジュース買ったでしょ?おつり、取り忘れてましたよ。』
そう言いながら、黒髪の女性は僕に釣銭の50円を差し出した。

「あ・・ありがとうございます。すみません、わざわざ。」

『いえ、私もこの近所ですから。最近、この近くに越してきたんです。』

「あ、、この斜め前のアパートの2階ですか?」無骨にも僕は黒髪の女性に聞き返した。

黒髪の女性は少し笑いながら立ち去ってしまった。

あーなんて僕は物資付けで無骨な奴なんだ、気を悪くしたに違いない・・

『高橋さぁん』

「え?」先ほどの黒髪の女性の声が僕の名を呼んだ。
濃霧で遠くなった黒髪の女性の姿は確認できないが、確かに今、そこで話した黒髪の女性の声だ、なぜ、僕の名を知っているんだろう?

『アタッシュケース。ネームカード入れておくの、危ないですよぉー』
黒髪の女性の声だけが響く。

ああ、そうか、、、この鞄に点いてるネームケースか・・
よかった・・気を悪くしてはいなかった・・

「あぁ、ありがとう」僕は、姿は見えないが黒髪の女性の声のする方へ向かい礼を言った。

翌朝、僕はウキウキとした気分で家を出た。
付き合っている彼女がいるにはいるが、夕べの黒髪の女性にもう一度会いたい。
黒髪の女性はこの近所だと言った、もしかしたら会えるかもしれない。
駅のホームでもどことなく落ち着かない。
「そんなに都合よく会えるわけないか・・・」

会社へ着くと、女子社員たちが、本社からの優秀な応援要員が来てくれるという話しで盛り上がっていた。
人手不足で残業の多い僕にとっても本社からの応援要員は嬉しい話だった。

(どんな人かしら?)
(これでやっと少しは楽できるわね)
(男性かしら?女性かしら?)
(穴埋めなら、そりゃ女性でしょ。だって、あの・・)
(シーッ!禁句だよ・・・)

「新しい人を紹介しよう。応援要員として本社から配属された兵藤君だ。」

『兵藤です。よろしくお願いいたします。』

《・・・あっ・・・・》
(ちょっと、すごいイケメン!!)
(かっこいい!独身かしら?)

「じゃ、高橋君、兵藤君にわからないところを教えてあげて。」

「あ。。はい。」
チェッ!なんだよ、楽できると思ったのに新入りのお守りか。。。
あーまた今夜も遅くなそうだ、、ついてないな・・・
僕は貧乏くじを引いたような気分になった。

『高橋さん、よろしくお願いします。』
兵藤は、僕に爽やかな笑顔で挨拶をした。

「部長、デスクはどこを・・?」僕は部長に尋ねた。

「ああ、じゃあ、とりあえずあのデスク使ってもらって。」

《あ・・・あのデスクは、、、》


------------------ 短めですが つづく----デス--すみません-------------------


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◆まやかし2

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--------------------- まやかし1 の つづき 2 ------------デス-------------


本社からの応援要員として、かなりのエリートイケメンの兵藤という男性社員が入ってきた。
年齢が近いということもあるのだろう、僕は部長から兵藤のお守役を頼まれ、デスクも隣り合わせとなった。

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

兵藤さんは私の座るデスクの斜め後方の指示されたデスクに向かい席に着いた。

《兵藤さんの使うあのデスク・・・確か全部整理したよね、、、大丈夫だよね・・・》

兵藤さんの前任が使っていたデスクの整理をしたのは私だ。
これから兵藤さんの使うデスクに何か残した物はなかったか気になり、やや後ろ向き加減に椅子を廻し彼の様子を見た。
それに気付いた兵藤さんは私に『よろしくお願いします。』と笑顔で頭を下げた。

「あっ!・チ・・ヅ・・・」

『えっ?地図?ああ、大丈夫です。昔この辺りに知人が住んでいたので地理には少し詳しいので。
ありがとうございます。』

「・・・・・」
気付かれたことにもキマリは悪かったが、それよりも別の理由で言葉の出なかった私は口角を少しあげただけの笑みで黙って会釈をした。
そして笑顔で話す兵藤さんの瞳を見た時、
この人は掌に舞い降りる雪のように、きっとすぐに消えてしまう・・そんな気がした。

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兵藤が来てから2週間が過ぎた。
彼はてきぱきと仕事もこなし、やることもスマートな男目から見てもさわやかな好青年だ。
女子社員達が興味を持つのも無理はないだろう。


(兵藤さんってすごいわよね。何でもできて)
(そうそう、前から知っていたみたいに何でもすぐにこなしちゃう。)
(歓迎会の時だって、部長の好みわかっているみたいな感じだった。)
(エリートはやっぱりどこか違うわよね。)
(彼女いるのかしら?)

(いないらしいわ・・)
多賀子が口を挟んだ。
(多賀子さん、兵藤さんにもうそんなこと聞いたの?)
(ええ。事前のリサーチは大事でしょ。それに兵藤さんの家、すごくお金持ちらしいわ。)
(事前リサーチって・・・多賀子さん、婚約者いるじゃない。
それより、久留美、今、彼いないでしょ?いつも気にして振り返って見てるじゃない、頑張ってみたら?いいんじゃない?)

私?・・

確かに兵藤さんの動向をチラチラと垣間見ていたが、好意を持っているわけではなかった。
いきなり話を振られたとまどいと同時に、他の社員の観察力に驚いた私は(いえ、そんな・・)と、一言返すのが精一杯だった。

(久留美さんに兵藤さんは無理よ。合いそうもないわ。
今の時代、婚約者がいたっていざとなれば関係ないわよそんなの。・・・ふふふ)
多賀子が再び口を挟んだ。

多賀子の棘のある言葉と誇らしげな笑みに、それまでの和やかな場は一瞬にしてシラケタものに変わった。


多賀子は人一倍セレブ志向が強くブランド好きで、気の強い過剰まなでの自信家だが、男性の前では人が変わったように慎ましやかに振る舞い、おとなしく気の利く女性として男性受けの良い女、高橋の彼女であり婚約者だ。
そんな多賀子は、当然、女子社員の中では評判が悪かったが、いつも綺麗に着飾り男性の前ではくねくねとしている彼女は、男性社員からは何故か憧れの存在であった。

そして高橋は、父親が経営する大手企業の一人息子で、この支店へは、半ば、武者修行のために入社したようなものであり、ゆくゆくは父の後を継ぎ、経営者となる将来が約束されたサラブレッドだ。
しかし、自分の定められた道程を重んじるあまり、自分の嫁となる女性は家柄もよく、有名な大学卒でなければ自分とはバランスが取れない、ふさわしくないなどと思い込んでいる薄っぺらな男だ。
こんなバックグラウンドだけが取り得の高橋と、したたかで計算高い多賀子とは思惑が一致するお似合いの二人だった。


兵藤が来て1ヶ月が過ぎていた。

僕は兵藤のおかげで残業がなくなり、早い時間に帰宅できるようになった。
 が、今まで「高橋さん、高橋さん」と僕の取り巻きのようにしていた女子社員は、一転、兵藤、兵藤とモテはやし、「高橋君、頼りにしてるよ」と言っていた部長までもが、わずか1ヶ月の間で兵藤を頼りにし、すっかりと影が薄くなってしまった感の僕は実際、面白くなかった。
そして、
あの霧の日に出会った黒髪の女性とは会いたいと思いながらもこの1ヶ月、一度も会えないでいる。
婚約者の多賀子は、最近始めた習い事やら料理教室やら学生時代の仲間と会うなど忙しくしているようで、以前とは異なり多賀子からの電話やメールも殆ど来なくなり、同じ会社にいても食事をする時間すら持てなくなっていた。
そんな中、僕は次第に嫌な奴になっていた。

「兵藤、次ぎの会議に使うからこの資料・・」

『はい、出来ています。』

「え?もう?・・・・
今日の戦略会議はB社で13時半から403号会議室だから資料持ってきてくれよ。
それと今からD社に行って、この前の契約を取ってきてくれ。
僕はC社で打ち合わせをしてそのままB社の会議室へ直行するから。
今回はニューヨークから大切な取引先の常務も同席する戦略会議だから時間厳守でな。」

『はい。』

実際は、いつもと同じA社の303号室、会議開始時間13時からだった。
いつもと違うのは年1回、海外からのお客様をお迎えしての大切な戦略会議ということだけだった。
A社とB社は電車で一駅の場所でそれほど離れてはいないが、この大切な会議に奴が遅刻をすれば当然、兵藤の株は下がるだろう。
そして留学経験のある僕は、ここで得意の英語の能力を発揮することができる。
そうすれば、再び僕に注目が集まるに違いない。

僕はC社の打ち合わせからA社への会議に向かうべく、意気揚々と会社を後にした。


--------------またまたつづく--------デス-------ごめんなさい--長くなるかも-----------


3部程度で終わらせるつもりでしたが、なんだか・・長くなりそうです・・・

◆まやかし3

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--------------------- まやかし2 の つづき 3 ------------デス-------------



好青年で仕事もよくできる本社からの応援要員兵藤に対する妬みから、実際に13時から会議が行われるA社303号室とは時間帯、場所も異なる会議室、B社403号室で13時半からだと兵藤に告げた僕は、C社との打ち合わせ後、戦略会議に出席するためA社へ向かっていた。

ゴットン・・・

?????

「ただいま車両点検をしております。お急ぎのところご迷惑をおかけいたしますが、安全の確認ができるまでの間、しばらく停車をいたします。」

嘘だろ・・・会議に間に合わなくなるじゃないか、、、
5分、10分、、まずい・・
だが、考えてみれば今回の戦略会議には外国人も出席するのだ。
英語が話せる人が他にはいないのだから、僕が行かなければ当然、会議も進まない、多少の遅れは待っていてくれるはずだ。
それに電車の遅れは僕のせいじゃないし、理由を言えば部長も怒ることはないだろう。
そんなことを考えながら、僕は電車が遅延しているので会議には少し遅れる旨、会社に連絡を入れた。

駅から猛ダッシュでA社に向かい、会議室に着いたのは開始時刻より30分遅れての、13時30分になっていた。
息を切らせながら会議室のドアを開けた。
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やはり、兵藤はいなかった。
ふっ・・兵藤の奴、今頃はこっちに向かっているんだろう。

「ハアハアハア、、、申し訳ありません部長。電車が・・・」

「ああ、大変だったね。そんなに急いで来なくてもよかったんだよ。」

「??????」

「兵藤君がね、英文の資料を作っておいてくれてね。それとヘッドセットも用意してくれたから。
今、別室で同時通訳してくれているから大助かりだよ。
えぇっと・・折角来たから、、、どこかその辺に・・・ああ、高橋君の席がないな。。。
じゃあ、そのパイプ椅子広げて空いてる出入り口付近にでも座ってて。悪いね。」

「あ・・・は、はい。」
なんでだよ!何で大手企業の一人息子のこの僕がパイプ椅子広げて出入り口に座るんだよ!
どうして兵藤がこの会議に出席してるんだよ!
同時通訳って・・兵藤はそんなに語学が堪能だったのか、、、

「He is exellent !」会議終了後、ニューヨークから来た取引先の社長が言った。
exellent !・・本来は僕が言われるはずだった。
なのに兵藤の奴・・・・

『お疲れ様です。』兵藤が僕に声をかけた。
「ああ・・」
『会議の時間と場所、変更になったみたいで・・・
高橋さんご存知ないかと思って、先ほどメール入れておいたんですが。
よかったです。いらしていただいて。』
僕が意地悪をしたことなど全く気付く様子もなく、くったくのない笑顔で兵藤が言った。

「ああ・・」
メール?・・・そうか、遅延し停車中の電車から連絡を入れた直後、携帯が振動していた。
てっきり会社からの了解メールかと思い、見ることもしなかったが、僕が教えた会議室が変更になったと思った兵藤が僕に教えてくれるために連絡をくれたのか・・・・

子供じみた卑劣な手段で兵藤の評判を落とそうとした自分に腹が立った。
幸いにも今日は金曜日だ。
多少羽目を外しても土日は休みだ。
バツの悪さと気が咎めた僕は兵藤を夕食に誘うことにした。

「今夜、空いてる?飯でも行かないか?」
『あ~すみません。今夜はちょっと・・・高橋さん、明後日はどうですか?付き合ってくださいよ~。』
「明後日かぁー」
特別予定はないが、暇だと思われたくはなかったのでスケジュール帳を取り出し予定を確認する振りをした。
『お願いしますよ~。』
「うん、なんとかなりそうだよ。」
『ありがとうございます。
このヘッドセット、レンタルなんで、これ返しながらそのまま直帰します。じゃ、明後日。』

直帰か、、、時計に目をやると19時になっていた。
多賀子は何をしているんだろ。一緒に夕食でも行こうかと電話を入れた。
「只今、電話に出ることが出来ません。ピーと鳴りましたら・・・」
またいないのか・・・・


トゥルットゥルッ♪ トゥルットゥルッ♪

「はい、もしもし。」
『久留美さん?兵藤です。こんな時間にすみません。』 

思いがけず兵藤からの電話は、明後日、久留美を夕食に誘う内容のものだった。
聞けば、他にも数人、会社の人が来るらしい。
久留美にとっては、兵藤を初めて見た時から感じていた「不思議」を解明するまたとないチャンスだ。
久留美は快く誘いにのった。


兵藤さんの誘いを受けた私は約束の時間よりも15分程度前に待ち合わせ場所に着いた。
早めに着いたつもりでいたが、既に兵藤は待っていた。

『久留美さん、早いですね。あと2人来ることになっているのでもう少し待ってください。』
「はい。私が一番乗りかと思ってましたが、兵藤さんいつからここに?」
『もうずぅーっと前から・・』
「え。。そんなに前から?」
「おぉ!」高橋が手を振りながら近寄ってきた。
『すみません、お休みのところ・・あともう一人・・・あっ・来た来た。多賀子さぁーん、ここです。』

多賀子?・・・私は高橋さんと顔を見合わせた。

いつにも増してお洒落をした多賀子は笑顔で手を振り返したが、その場に高橋さんと私がいることに驚いた様子で直ぐにがっかりとした表情に変わった。

『誘っていただいた多賀子さんには事後報告で申し訳ないと思ったのですが、
食事は大勢の方が楽しいと思って・・・高橋さんと久留美さんも誘いました。』

当然、高橋と多賀子は険悪なムードだ。

だが、そんなことはおかまいなしに兵藤は続けた。

『多賀子さんには今まで何度も食事に誘っていただきながら、なかなか都合がつかなくて・・・
申し訳ないと思っていたんで今日は実現できて良かったです。』

私は兵藤をかいかぶっていたようだ。
兵藤に不思議などないのかもしれない。
兵藤はただの脳天気者だったのかもしれない。
入社して間もない兵藤が高橋と多賀子の仲を知らないのは止むを得ない。
だが、もう少しこの場の空気を読んでもらいたいものだ。
それにしてもこの雰囲気。。気まずい・・・・

「なんか、私・・・今日は朝から体調が優れなくて。ごめんなさい、やっぱり失礼するわ。」
多賀子が言った。

「あ・・僕も今日はごめん。気になることがあって、悪い。」高橋も帰ると言い出した。

ええ・・・そんなぁ・・・・

(あれぇー!多賀子さんじゃないですかぁ!)
いかにも軽そうな男が多賀子に近寄ってきた。

(この前の合コン楽しかったですね。またやりましょうよ。今度はどのランクがいいですか?
あ~・・でも多賀子さんは合コンの女王だから忙しいか。
また連絡ください、金持ちお坊ちゃま君、セッティングしますよぉ!じゃあ!)

多賀子の合コン好きは有名だった。
しかし、高橋と婚約中なのだからと本気にしていなかったが、噂は事実だったようだ。

ん・・ん・・ますます気まずい雰囲気。。。。

私は話題を変えようと言葉を捜していた時、兵藤が言った。

『残念だなぁ。。。妻の手料理を皆さんに食べていただこうと思っていたのに・・
じゃ、久留美さん、今日は二人で盛り上がりましょうか?』

「あっ、、、でも・・え?
妻?妻って?兵藤さん、独身じゃないんですか?だって、彼女いないって聞きましたけど・・・」

『ええ、彼女はいません。結婚してますから。』

「ああ・・そういう意味・・・」

「お二人でどうぞ!私は帰ります!」
バツの悪さを隠すためだろうか、多賀子は強い口調で言い、そそくさと帰ってしまった。
その後を追うように高橋も帰った。

結局、私は兵藤さんと二人で食事をすることになった。


--------------------- まだ つ づ く --------また明日----------------


◆まやかし4

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--------------------- まやかし3 の つづき 4 ------------デス-------------



兵藤と二人で食事をする予定で訪れた多賀子だったが、兵藤が、高橋や久留美も誘っていたことや、金持ち狙いの合コンにも毎回出席していたこと、そしてこれまでも度々、兵藤を食事に誘い断わられていたことが婚約者の高橋にバレてしまった。
その上、狙っていた兵藤が既婚者であることを知り、いたたまれない気持ちになった多賀子は気分が悪いと言い残し夕食もせずに帰ってしまった。
これらの事実を目の当たりにした多賀子の婚約者、高橋もまた、多賀子の後を追うようにその場から逃げるように立ち去っってしまった。

残った兵藤と久留美は二人だけで食事をすることになった。



特に悪いことをしたわけではないが、多賀子と高橋の帰った後に残る何とも言いようのない気まずい雰囲気の中、私は兵藤さんの少し後を着いて歩いていた。

『もうすぐですから。』
「はい・・・兵藤さん、あの、さっき、妻の手料理って言ってましたけど、、」
『ああ、あれ嘘です。独身です。でも多賀子さんには既婚者だと言っておいた方がいいと思って。』
「はぁ、、」
なんだ、そうだったんだ・・・・
それにしても待ち合わせ場所からもう随分と歩いている。
そろそろ、あとどのくらいかと聞こうと声をかけようとした時、

『着きました。此処です。』

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兵藤に連れて来られたレストランはただならぬ気配を感じる怪しげな建物だ。

入ることを躊躇っている私に気付いた兵藤は笑顔で言った。

『外見は少し怪しげだけれど、中は明るい雰囲気のいいレストランなんです。
それに、和食・洋食なんでもリクエストを聞いてくれる店なんです。さ、入りましょう。』

私は扉を開ける兵藤さんの後に隠れるようにして、開いた扉の奥を覗いた。

扉を開けると正面には階段があり、その階段を昇りきると、再び扉があった。
兵藤は慣れた様子で、階段上の扉を開けた。

「わあ!!!!!」

扉の向こうには、暗く怪しげな外見からは想像も出来ない、明るく素敵な世界が広がっていた。

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見晴らしのよいテラスには郵便ポストが据えられ、それを挟むようにベンチが置かれている。
手摺の代わりだろうか、テラスを囲うように絵画が飾られ、まるで屋外ミュージアムのようだ。

「本当に素敵なところですね。見晴らしもいいし・・・こんなに素敵なレストランがあったんですね。」

『気に入っていただけたようで、よかったです。』

「ええ。とっても。 あれ?こんなに明るい・・・
でも外はもう陽が落ちていたから、これって室内?え?でも屋外?あれ?どっち?」

『さあ、どちらでしょう・・
久留美さんの今、目の前にある景色、それは、まやかしかもしれませんよ。』
兵藤は意味ありげな笑みを浮かべた。
そして、
『あっ・・そうだ。丁度よかった。
デスクの引き出しの中にあった手紙、ずっと持ち歩いていたんだ。ここで投函しよう。』
そう言って、兵藤さんはポケットの中から、薄いベージュの封筒を取り出し、テラス中央に備えてある郵便ポストに入れた。

デスクの中は全て整理したつもりでいたが、手紙が残っていたのか?

「デスクの中の手紙って?手紙が残っていたんですか?
私、全部整理したつもりだったんですが、、、今投函した手紙って、あて先は?差出人は・・」

『いや、そこまでは見ませんでした。それより何を注文します?』

そこまでは見なかったと言われた私はそれ以上、手紙について尋ねることが出来なくなった。


外見からは想像も出来なかったレストランのテラスから見える風景や絵画に、しばらくの間、私は心を躍らせていたが、それも少し収まってくると、やはり高橋と多賀子のことが気にかかっていた。
それを察した兵藤が久留美に言った。

『あの二人・・・高橋さんと多賀子さんのことが心配ですか?』

「え?あ、はい。あの後、どうしたかなって・・・大丈夫かしら、、、」

『ある意味、同じ価値観の持ち主だから。大丈夫ですよ、今のところはね・・・
久留美さん、ご覧になりますか?』
兵藤はそう言いながら飾ってある絵画の一枚に手を触れた。

「あっ・・・・!!!!!」

兵藤の触れた絵画はその画を変え、まるでテレビ画面のように高橋と多賀子の様子を映し出した。

案の定、高橋と多賀子の大喧嘩が始っていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


「おい、多賀子、ちよっと、待てよ!
この1ヶ月、どうも連絡が来ないと思っていたら・・
料理教室や習い事を始めたなんて言っておきながら。
金持ち狙いの合コンばかり行ってるって噂、本当だったんだな。
兵藤を何度も食事に誘っていたり、いったいどう言うつもりなんだよ!」

「何よ!だいたい貴方がいけないんでしょ!
婚約してからどれだけ経ってると思ってるのよ!もう1年よ!」

「仕方ないだろ!!あんなことがあったんだから!」

「あんなことがあったにしたって、婚約してから1年も婚約中のままなんてありえる?
だったら、もうダメなのかなと思って、他、探すの当然でしょ!
貴方に私を攻める資格なんかないわよ!
私、もう29なのよ!少しは私のことも考えてよ!」

「考えてるよ!」

「ウソ!!!何も考えてくれてない。
本当は、忘れられないんでしょう千鶴子さんのこと。だから、」

「いいかげんにしろ!!」


僕は多賀子の言動にも腹が立っていたが、千鶴子を忘れていないとの多賀子の言葉が胸に突き刺さった。
確かにそうだ。
千鶴子とのことは忘れていない、忘れられない出来事だった。
だが、婚約をしながら1年もそのままやり過ごしているには別の理由もあった。
多賀子は上場企業の普通のサラリーマンの娘ではあるが、有名な女子大卒で家柄も申し分のない、いわゆる上級家庭の部類に入るそこそこのお嬢さんだ。
その多賀子との婚約までは賛成してくれていた僕の父が、婚約後、数ヶ月もすると急にいい返事をしなくなったからだ。

大喧嘩をしたまま多賀子と駅で別れた僕は、仕方なく一人で夕食を済ませ帰宅をすることにした。
しかし、この日は、一人暮らしの暗い部屋に真っ直ぐに帰る気がせず、いつもより少し遠回りをした。

考えてみればこの街に来てから7年、駅と家の往復で、寄り道をするのはいつも会社の近所か繁華街であり、自宅駅近辺の散策をしたことなどなかった。
「今夜は駅の反対側から帰ることにしよう。」

毎日使う駅であったが、降り口が違うとまた新鮮に見えた。

へぇー反対側は駅の近くでもこんなに静かで何にもないんだ。

住宅街を抜け、1本道に差し掛かると教会らしき建物があった。

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こんなところに教会があるんだ・・
すっかりと暗くなった街を、教会の明かりだけが煌々と辺りを照らしている。
僕は思い切って教会の扉を叩いた。


-------------------- 再び三度、つづく --デス---------------------


◆まやかし5

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--------------------- まやかし4 の つづき 5 ------------デス-------------



待ち合わせ場所の駅前で別れた高橋と多賀子のことが気がかりなまま、兵藤に連れられて来られた不思議なレストランで食事をすることになった久留美は、レストラン屋上のテラスに飾られた絵画がテレビ画面のように、ケンカをしている二人を映し出し、その様子を心配そうに覗いていた。


一方、婚約者の多賀子と大喧嘩になった高橋は、クサクサとした気分のまま自宅最寄り駅で降りたが、真っ直ぐに帰る気にはならず、いつもとは違う反対側の出口から降りた。
駅の反対側は、タイムスリップをしたかのように未開発のままの静かなたたずまいが拡がっていた。
しばらく歩くと、辺りを煌々と照らす明かりの点いた教会が建っていた。
教会などつゆほどにも興味のなかった高橋だが、その明かりに誘われるように開いている門から中へ進み、教会の戸を叩いた。

ドンドン・・・ドンドン・・・・

ギィーィィ、、、、、
鍵のかかっていない扉は、少し鈍い音を響かせた。
「どなたかいらっしゃいませんか?・・・あの、、お邪魔します。」

明るい廊下の中央には両開き扉がある。
きっと、あそこが礼拝堂だろう。
僕は迷うことなく、その扉を開けた。

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初めて見る礼拝堂は、天井が高く冷んやりととしているがどこか温かく、そして厳かな趣が感じられた。

・・・誰もいないのかな。。。

僕は礼拝堂の正面まで進み、通路程近くの席に腰を降ろした。

『きっといらっしゃると思っておりました。ようこそ、高橋様。』

優しく落ち着いたその声の持ち主は、あの霧の深い夜、自動販売機に残った釣銭を届けてくれた黒髪のストレートヘアがよく似合う美しい女性だった。

「あ、あの時の・・ここの人だったんですか?」
あの日以降、会いたいと思い続けながらも会えないまま1ヶ月が過ぎていた、あの時の女性がこの修道院の女性であったことに驚き、少しがっかりとした。

『ふふふ・・がっかりさないましたか?私が修道女で。』

まるで心を見透かされているようだ。
慌てて僕は答えた。
「いえ、とんでもない。嬉しいです、またお目にかかれて。」

『どうなさいましたか?そのお顔では、何かあまり嬉しくないことがあおりのようですね、、』

「ええ、実は・・・」



「あっ・・・」

映し出していた画面が途切れた。


『久留美さん、食事が来たようです。』

私は兵藤さんに、この不思議なレストランは何なのか、なぜ、テラスに飾られている絵画が高橋と多賀子の様子を映し出すことができるのか、兵藤さんはもしかすると千鶴子先輩なのではないか、違うのなら一体何者なのか、目の前で起きているとうていありえない現実について尋ねたかったが、言葉にしてしまうと、兵藤さんを初めて見た時の予感が的中してしまうことが怖くて聞き出せないまま、テラスから中へ入った。

『少し冷えて来ましたね。さあ、中へ入って食べましょう。』

料理を一口、口にするとほわぁっと何かが口の中で広がり、今まで食べたことのない咽喉通りとあまりのおいしさに、兵藤さんが何者なのか、ここはどんな処なのかなど、どうでもよいことに思えてきた私は、この場を楽しむことにした。

兵藤さんは以外にも情報通だった。

会社の下の駐車場の管理人は居眠りばかりしていて無断駐車の出入りに全く気付いていないこと、ビルの清掃員に意地悪なおばさんがいることや、隣のビルの5階に入る会社は間もなく社長が夜逃げをすることなど、この支店に来てまだ1ヶ月だと言うのにかなりの情報網を持っている。

「へぇ~。兵藤さん、すごい!いろんなこと知ってるんですね。」

『うん、外回りするから。
どんな些細な情報でも逃さないようにしないと生き残れない世の中だから。はははは・・・』
そう言って兵藤は笑った。

笑顔で話をする兵藤に、これまで抱いていた不思議な疑念などいつの間にかどこかへ追いやっていた久留美だった。
そして、
兵藤との楽しい食事の時間は瞬く間に過ぎた。

この時間がもう少し長く続けばいいのに・・・そんな久留美の想いを余所に兵藤が切り出した。

『そろそろ出ましょうか。途中まで送ります。』


食事を始めた頃に振り出した霙が雪に変わっていた。

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「あれ?雪?」

掌を差し出し確かめた。
霙から変わった雪は、私の掌に落ちては熔け、落ちては融けた。
この人は掌に舞い降りる雪のようにすぐに消えてしまう・・そんな気がした、兵藤に初めて会った日のことを思い出した。

『ああ、雪に変わりましたね、少し早い初雪ですね。』

「ええ。。あ、ごちそうさまでした。ところで兵藤さん、」

『また来ましょう。』

また・・などあるのだろうか、、二度と会えなくなるのではないだろうか。

「またって・・・またこんな日が来るんでしょうか?もう会えなくなるんじゃないですか?」

『あはははは・・まいったな、、、
やはり久留美さんのように自分をしっかり持っている、夢に向かって努力をしている人にまやかしは通用しませんね。』

「兵藤さんは、もしかして千鶴子先輩じゃないんですか?」

『違います。そんな・・千鶴子様に失礼ですよ。』

「やっぱり千鶴子先輩をご存知なんですね。」

『はい、よく知っています。
千鶴子様は心の優しいお方でした。
久留美さんと初めて会った日、昔、この辺に知り合いがいたって言ったでしょ。』

「そう言えば・・じゃ兵藤さん、貴方は?どこからいらしたんですか?」

『そのうちわかりますよ。じゃ、気をつけてお帰りください。』
そう言うと兵藤は消えた。

「えぇえ。。!!!
気をつけて帰ってって・・ここどこ?あれ?兵藤さん、どこ?」

既に兵藤さんの姿はなかった。

まだ、レストランから数歩しか歩いていない。
こんなところで“じゃあ“と突き放されても、ここが一体どこなのかもわからない。

「兵藤さーん・・・」

降っていた雪が止み、急に霧がかかってきた。
辺りは自分の足下すらよく見えない程の濃霧に覆われ始めた。

「困ったわ・・ちょっと、兵藤さん・・・
悪ふざけはやめて出てきてください!!!!!!兵藤さ~ん!」
心細くなった私は大声で叫んだ。

すると、今までかかっていた濃い霧が一気に薄くなり始めた。
私はキョロキョロと周りを見回した。

「え?えええ?・・・」

薄くなった霧の中、私の立っているその場所は、月曜日から金曜日まで毎日通う会社の前だった。

「・・・なんで?・・・ひょうどうさ、、ん、、」
私は小声で会社の周りを一周し兵藤さんを探した。

カサカサ・・・

「あっ、兵藤さん!」
私は音の方へ走って戻った。

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立ち並ぶビルの間を入って行くネコの尻尾だけが見えた。

「・・・???ネコ?」


『久留美さん、僕は会社のビルに住み着いている野良猫です。
久留美さんは僕を“のら”ちゃんと呼びますが、そんな野良猫の僕に千鶴子様は「ヒョウ」と名前をつけてくれました。

千鶴子様は会社が休みの日でも、毎日僕にご飯を持ってきてくれる優しい人でした。
僕が具合の悪い時は病院へも連れて行ってくださいました。
だから千鶴子様のために、僕も何かしたいと思い、出て参りました。

千鶴子様がいらっしゃらなくなった後は、久留美さん、貴方が僕に毎朝ご飯を運んできてくださいました。
ありがとうございました。
久留美さんを食事に誘ったのはほんの御礼の印です。

久留美さん、夢は叶えるために持つものです。夢に向かって進んでください。
千鶴子様もそう願っておいででした・・・・』

会社の植え込みを寝ぐらにしているあのネコ?
まさか・・
でも、そう言えばこの1ヶ月、私はあの野良猫を見ていない。
兵藤さんがこの会社に来たのも1ヶ月前。。
そして、あの野良猫に千鶴子先輩が「ヒョウ」と名前をつけていたということが本当なら・・・

ヒョウ・・ドウ・・ひょう、、どう、、さん、、、、?

完全に霧が晴れた。

信じがたい現実を前に、早くこの場から去りたい恐怖感に襲われた私は、通い慣れた会社の道を早足で駅に向かった。



----------- この回、ここでつづく・・・にしました------


------------------------------- ま た あ と で ----------------------------

◆まやかし6

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--------------------- まやかし5の つづき 6 ------------デス-------------


1ヶ月前、本社から応援要員として配属された兵藤が、実は、生前、千鶴子が「ヒョウ」と名を付け可愛がっていた会社のビルの植え込みに住む野良猫だったことを知った久留美は、「ヒョウ」の話しを鵜呑みにすることが出来ず、半信半疑のまま駅に向かい歩いていた。



あの消えた不思議なレストランは実際は会社だったし、会社の野良猫の姿もこの1ヶ月見ていない、千鶴子先輩が野良猫にご飯をあげていたのもその後、私がご飯をあげている事も他の人には内緒だった。確かに野良猫ののらちゃん、、じゃなくて「ヒョウ」しか知りえないことだ。
確かに「ヒョウ」の話しは全てのつじつまが合う・・・

えーでも、、そんな馬鹿な・・・・

もっとも、明日、会社に行けばわかることだわ。

私は、今体験した考え及ばない不可思議な現実を打ち消したい気持ちになり、考えないことにした。
そうなると、今度はテラスの絵画を通して見た、高橋のことが気になってきた。
一人で教会に入り、修道女に話を始める丁度良いところで画面が途切れた。
あの後、高橋さんは修道女に何を話したんだろう。。。




僕は、あの霧の深い夜に会った優しく落ち着いた声の修道女に、まるで夏場の炎天下に置いた氷が溶けるように、かつての恋人、千鶴子のこと、そして婚約者の多賀子について話した。


千鶴子に始めた会ったのは僕が入社をして3年ほどたった頃だった。
本社から異動で配属された千鶴子は、2つ年上の地味ではあるが清楚で控えめなしっかり者の魅力的な女性だった。
そんな千鶴子に、僕は猛アタックの末、交際が始った。

千鶴子は、幼い頃に両親を事故で亡くし、祖父母に育てられた。
高校を卒業後、早く社会に出てこれまでお世話になった人達に恩返しがしたいと、大学には進学せずに今の会社に入った。
僕にはこれが不満だった。

僕は大手企業の経営者の一人息子であり、ゆくゆくは社長となる人間だ。
世間体もある。
僕の妻になる人は有名な大学卒で、家柄も良い女性でなければバランスが取れないのだ。

千鶴子と付き合い始めて2年ほど経った頃、千鶴子とは正反対の、ブランド、派手好きで華やかな印象の多賀子が入社してきた。
多賀子は、有名な大学卒業後、アメリカ留学の経験もあり、家柄もよく、父親の勤務する企業は名前の知れた大手企業だ。

多賀子は僕と千鶴子が付き合っていることを知ってはいたが、積極的にアプローチをしてきた。

千鶴子とは外見も性格も正反対の多賀子は、物怖じせず、異性に積極的で強引な割には、どこか頼りなげで色々な相談事を持ちかけてくる彼女を僕が放って置けなかったのも事実だった。
僕は多賀子と頻繁に会うようになっていた。
そんな頃、千鶴子から別れ話を切り出された。

千鶴子は別れ際に言った。
『貴方は、もしも私がお金持ちのお嬢さんで有名な大学を出ていたら、私を選んでくれていたのよね。』
その2日後、千鶴子は亡くなった。

僕は千鶴子の残した言葉がずっと心に留まり、流すことが出来ずにいたのだった。

一通り話しをしたところで、それまでうなずいて聞いていた修道女は、
『高橋さん、貴方はそのお方、千鶴子様のことを何もご存じないのですね。こちらへどうぞ。』
そう言いながら僕を教会の塔の一番上に案内した。

『 少し霧がかかってしまいましたが、ご覧になれますか?』

「はい・・・ここは随分と見晴がいいんですね。」

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塔の一番上からは、霧の中に薄っすらと浮ぶ街の明かりを見ることができた。


『あの明かりもステイタスや名誉、地位、権力と同じ、一瞬にして崩れてしまう“まやかし”かもしれません。
ですが、その“まやかし”に弱く、集まる人は山ほどいらっしゃいます。
どんなに地位や名誉のあるお方も雑踏の中の明かりの一つにしか過ぎませんのに・・・・
貴方もそのうちのお一人でしたね。

心の眼を閉じたままでは本質を見抜くことは出来ません。
貴方は千鶴子様を愛していたのではなく、千鶴子様の優しさにただ甘え、依存していただけなのです。
心の眼を開いている千鶴子様はそれをよくお分かりになってらしたのです。
だから、貴方から身をお引きになった。

多賀子さま・・でしたね、貴方のご婚約者様。
お似合いでございますよ。
きっと、貴方の気付かない大切なものを気付かせてくれることでしょう・・
貴方のその閉じた心の眼を開かせてくださるでしょう・・』

「僕は留学もしたし、少なくとも人より多くの経験をしています。
確かな眼は持っていると思います。
だから千鶴子のことも承知の上で付き合ったんです。
ただ、千鶴子は多賀子とは違ってしっかり者の強い人間だから一人でも、僕がいなくても大丈夫だった。それだけのことです。」

『そうでしたか・・・では千鶴子様のお墓もご存知なんですね。失礼を・・・』薄笑いを浮べながら階下へ降りた。

『この緩やかな坂道を左に真っ直ぐ登り貴方のご自宅が近くなる頃、この霧も晴れ雪が降り出すことでしょう。
お気をつけて・・
あっ・・高橋さん、一人でも大丈夫な強い人間など、一人もいないんですよ。。それだけは心に留めて置いてくださいませ。』

ふん、説教じみたことばかり言って、気分が悪い。
だが、言われてみれば僕は千鶴子の墓がどこにあるのかも知らない。
親戚の人が引き取りに来たのは聞いたが、場所までは探しようがなく、そのままになっていたのだ。

自宅のアパートの屋根が見え始めた頃、修道女の言ったとおりに霧が晴れてきた。
そして、長いこと空家だったあのアパート2階の角部屋に明かりが灯っているのが見えた。

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修道女がアパートから通うわけないよな、、、違う人だったのか・・・
あれ?   
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霧の晴れた夜空から満月に照らし出された雪がふわりふわりと僕の肩に、頭に、落ちては融け落ちては融けた。
その雪を見ていると、急に、千鶴子のことを何も知らないといった修道女の言葉が気になり始めた。

(あの修道女はもしかすると、千鶴子かもしれない。
いや、違うとしても、千鶴子の墓を知っているのかもしれないな、よし!明日の朝、出勤前にもう一度寄って聞いてみよう。)

僕は翌朝、再び教会を訪ねた。



-------- ごめんなさい、、、長くなってしまいました。。が。。またつづく -----デス-----


◆まやかし7

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--------------------- まやかし6の つづき 7 ------------デス-------------



修道女に言われた言葉が気にかかっていた僕は、翌朝、出勤前に昨夜の教会へ向かった。
昨夜、降り出した雪は積もることなく止み、その変わりにピリッと冷たい空気が顔をさした。

教会辺りに着く頃には、眩しいほどの朝陽が昇り、門に付いた露をキラキラと照らしている。

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「確かにこの辺りだったと思ったんだけどな・・・」

昨夜は霧がかかっていて周囲をよく確認することはできなかったが、修道女に教えてもらった1本道を帰ってきたのだ。
今朝はその道を逆に歩いて来たのだから迷うことはない。
途中、あのアパートもあった。


ブボォボォボォボォー
オートバイに乗った新聞配達員が来た。

「すみませーん、この辺りに教会があると思うんですが。」

「この辺りに教会? 聞かないなぁ・・そこは墓地だよ。」

「墓地って・・」

「墓地ってのは墓のことだよ、墓。あんた知らないのかい。」
ブボォボォボォボォー・・そうい言い残し新聞配達員は走り去った。

墓地って・・・門構えは昨夜の教会と似ているが・・・

僕は昨夜の教会と似ている門構えの中に一歩足を踏み入れた。
草や花が多い茂った中に幾つかの墓石が見える。

シャッシャッシャッシャ・・

?・・・音の先にはほうきを片手に墓地の掃除をしている老女がいた。

「あ、あの、すみません、この辺りに教会があると思うんですがご存じないですか?」

「えぇっ?」
老女は耳が遠いようだ。
僕は老女の近くまで進み再び尋ねた。
すると、老女は言った。
「教会?私は長年この墓地の墓守をしていますがこの辺りに教会はございませんよ。」

「そんな・・・」僕は老女が掃除をしている墓の墓標に眼を落とした。

“キタシラカワ チズコ”

千鶴子?
だが、千鶴子の姓は“田中”だ。姓が違う同じ名前の人か。。。
「あの、このお墓は・・?」

「北白河家先祖代々のお墓でございますよ。ご立派でございましょう。」

「ええ、本当に・・・お忙しいところすみませんでした、、、」

「あら、それ・・高橋さん、ちょっと・・」
老女は帰ろうとした僕を呼び止めた。

「えっ?」

「そのアタッシュケースのネームカード。貴方、北白河グループ傘下のプリントン会社の方?」

「あ、はい、そうです。」

「じゃあ千鶴子お嬢様のこともご存知でしょう?」

「千鶴子?田中千鶴子さんのことですか?」

「ああ、そうでした。
千鶴子お嬢様は、ご自分が大株主だと言うことがわからないように会社では“田中”と名乗っておいでのようでした。
私は千鶴子お嬢様がお小さい頃からお育て申し上げたバアヤでございます。
では今日は千鶴子お嬢様のご命日のお参りでここに?」

命日?そうか、今日は千鶴子の命日だった。
「あ・・・ええ、、、まあ。。
千鶴子さんとは結婚を前提にお付き合いさせていただいていた恋人です。
お墓探すのに苦労しました・・」

「まあ、それはそれは・・さぁどうぞ、お参りをなさってくださいませ。」

(あんた、調子がいいね!!さっきまで知らなかったじゃないか!!!)

「??・・・・」

(結婚を前提にだって?冗談じゃない!
命日も覚えていないあんたが何言ってるんだよ!
千鶴子お嬢様はあんたのようなバックグラウンド頼りの中身のない男が一番お嫌いなんだよ!!
こんな薄っぺらなあんたを千鶴子お嬢様が選ぶわけがないだろ!
ステイタス好きもほどほどにしな!!!)

確かに聞こえた。
誰だ?
目の前の老女はニコニコとしているだけだ。
では今の声は誰だ?

急に怖くなった僕は会社に遅刻するからまた後でゆっくりお参りをさせてもらいたいと言い残し、逃げるようにして墓地を後にした。

なんだ?何だ?何なんだ?一体どうなっているんだ?
千鶴子が北白河グループの令嬢?
千鶴子がプリントン会社の大株主だった?
昨夜の出来事といい、教会といい、なんなんだ?兵藤達は何事もなかったのか?
早く会社に行って、兵藤と久留美さんに聞いてみよう。
あー早く会社に着きたい。
僕は、走る電車の中ではやる気持ちを抑えていた。

「この人痴漢です!プリントン会社の高橋!誰か捕まえて!」

『ええ?僕?違います、やってません!!僕を誰だと思っているんだ!!』


(ほうらね、、ネームカード入れておくと危険でしょ、
こんなに大衆の前で名指しをされた貴方は、たとえそれが間違いであったとしても、
この場しか見ていない人は“プリントン会社の高橋が痴漢した”と思い、それが世間に拡まってしまうものよ・・
名前を覚えられて悪事に使われることもあるから危険だと千鶴子お嬢様に言われていたこと、忘れていたでしょう・・・・)

駅員に囲まれ抑えられた時、先ほどの老女の声がかすかに聞こえた。



兵藤さんが会社に住む野良猫の「ヒョウ」なら今日はあの植え込みにいるはずだわ。
私は少し上等なネコの缶詰を買い、早めに出勤した。

「のらちゃん、のらちゃん・・・」あら?いない・・

「のらちゃん、ヒョウくん、ヒョウ・・兵藤さん。」

『んなぁ~・・んなあぁ~』
植え込みで毛繕いをする野良猫の「ヒョウ」の姿があった。
    
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           ・・・い た・・・

「1ヶ月も姿を見せなくて。心配したわよ。はい、ご飯・・・ヒョウ・・ドウさん。」

『うあーん・・』

ヒョウはやはり兵藤さんだった。

会社に入ると兵藤さんの席は勿論あいている。
定時になっても出勤しない兵藤さんを部長が探し、本社に電話をしている。

「・・・・」

電話を切った部長は怪訝そうに言った。

「本社からの応援要員はまだ未定で送り込んでないって言うんだ。
きっと、グループ会社の派遣社員じゃないかって・・
あれ?そう言えば高橋君、まだ来ていないみたいだね。今まで気がつかなかったよ。
まあそのうち来るだろう。
しかし、兵藤君がいないのは痛いなぁ・・・誰か連絡先知ってる人いない?」

女子社員の一人が答えた。
「ええ、誰も知らないみたいで・・あ、、そう言えば多賀子さんもまだ出勤していません。」

「多賀子さんもまだか・・全然気がつかなかったなぁ~。
いやあ、兵藤君がいないのは痛手だなぁ、、どうしたのかなぁ兵藤君は・・」

「いやぁ~参りましたよ部長、朝から電車の中でひどい目・・」

「兵藤君・・・ああ、高橋君か、、遅れたのね、いいよ。
そんなことより兵藤君知らない?まだ来ないんだよ。何か聞いてない?
どうしたのかなぁ・・心配だなぁ・・・・引き出しに何か入ってないか?」

この日多賀子は体調不良を理由に会社を休んだ。

もしもこの日休まなければ、社内でおだてられチヤホヤとされている高橋が、大手企業の一人息子という理由のみであり、実は期待もされていない、戦力にも入っていない人材だということが多賀子にも判ったことであろう。
そして、これに気がついてさえいれば、多賀子もあんなことにはならなかっただろう。

私は兵藤さんがこのデスクを使う日は二度と訪れないことを知っていた。
部長は引き出しを開けた。
勿論、中には何一つ残されていなかった。
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--------------- しつこいくらい またもやつづく -------デス---間もなく終結------


◆まやかし8

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-------------------- まやかし7 の つづき 8 --------- デス ---------------



僕が墓地で出会った北白河家の墓守をしているかつては千鶴子のばあやだったという老女の話しを聞いた、車内で痴漢に間違われたその日以降、兵藤は消えた。

考えてみれば兵藤がこの支店に訪れてからと言うもの僕はついていなかった。



「おお、高橋!久しぶり。」

『悪いな、急に。』

僕は墓地で会った老女の話が事実なのか昨日の出来事が真実なのか確かめるため、同期入社で本社の総務部にいる木口に頼み込み“田中千鶴子”について調べてもらった。

「ええっと・・田中千鶴子さんの入社は今から13年前、高卒で異例の本社採用。
よっぽど優秀だったんだな・・
入社後、会社の研修制度を利用して、ハーバーガー大学へ留学。
経営学を専攻し、わずか3年で飛級、首席で卒業、と同時にMBAを取得して帰国。
本社に戻ってからは社内唯一のMBA資格保持者ということで経理の他、経営に関することも携わり株主総会にも度々出席していたようで、かなりの優遇を受けていたみたいだ・・
元々心臓が弱く無理の出来ない身体だったから、本社勤務は辛かったんだろうな。
でも、優秀な千鶴子さんを本社は手放したくない。
で、表向きは成績不振の支店を立て直す名目で、3年前、支店の中で一番暇な・・高橋、お前のいる支店に異動になったんだよ。
だから、千鶴子さんの所属はあくまでも本社のままだったはずだ。
お前、付き合ってたくせに何も聞いてなかったのか?」

『ああ・・大学へは進学せずに高卒入社だってことしか・・・』

「そうか、お前は入社当初からあの支店勤務だったから知らなかったんだな。
それに千鶴子さんは自慢する人じゃないし多くを語らない人だったからな。
確かに採用時は高卒入社だけど、最終学歴はハーバーガー大学だよ。」

『それで、田中千鶴子は北白河千鶴子だったのか?』

「そこなんだよ、それは誰も知らないって。
でもありえない話しじゃないよな。
知的な上に品もあったもんな・・・
なんだよ、高橋!今頃、おしいことしたなんて思ってんじゃないだろうな。」

『馬鹿な・・千鶴子に振られたのは僕の方だ。それに僕は多賀子と結婚する予定なんだぞ。』

「ははは、、、、、、
お前のことだから、千鶴子さんの経歴知って後悔したかと思ったよ。
そうか、とうとう決めたか、多賀子さんとの結婚。」

僕は「お前のことだから」と言った木口の言葉が突き刺さった。
そして修道女の「貴方は何も知らない」と言った意味もようやくわかった。
本当に何も知らなかった・・・
いや、幼い頃に両親を亡くし高卒入社の千鶴子には何もないものだと決め込み、知ろうともしなかったのだ。
その千鶴子が・・・そんなに・・・・

ブブブブ・ブブブブ・ブブー・ブー・・・・

先ほどから何度もスーツのポケットで携帯が振動している。
どうせ、入籍だけでも先にとせっつく多賀子からだろう・・
面倒だ。
入籍を先にし、結婚式は2人で海外で挙げ、帰国後、落ち着いてから披露宴はすればいい・・・多賀子の提案だった。
僕も30歳までには結婚し、その後、父の会社を継ぐという人生設計は立てている。
だが、今は多賀子と話す気分にはなれない。

僕は千鶴子を思い出していた。
千鶴子はなぜ、僕に話してくれなかったのだろう・・
恋人の僕にまでなぜ、そんなに身分を隠す必要があったのだろう・・
それとも千鶴子は、僕がステイタスや損得だけで人を選ぶ人間だと思っていたのだろうか・・

本質を見抜いていた・・修道女の言葉が頭を過ぎった。

僕は訳もなく、千鶴子に腹が立ってきた。
そして、ただ甘え、依存し、ぶら下がるだけの強引な多賀子が面倒な存在にすら思えてきた。

そう言えば・・・・
修道女はこうも言った。
僕が千鶴子の優しさにただ甘え、依存していただけだと。
けれど、、僕は違うな・・
デートの時の飲食代はいつも僕が払っていたから千鶴子に依存をしていたわけじゃないな、うん、違う。


(いるんだな。都合のいい方に勝手に解釈して、自分を正当化する馬鹿。
ポジティブシンキングも度を超えると病気だ。
あんた、病院行ったほうがいいよ。ああ、馬鹿につける薬はないか・・・)


「・・・?・・」誰だ?違う、木口じゃない。
朝から聞こえるこの声は誰なんだ?

「あーもうこんな時期かぁ、きれいだなぁ~」
木口は町を彩る一足早いクリスマスのイルミネーションの輝きを見上げている。

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『・・・こんなの・・景気がいいように思い込ませる見せ掛けだ、
この時期だけの“まやかし”だよ。』

「???どうしたんだよ、高橋?大丈夫か?お前らしくないな。」


木口と別れ、自宅のある最寄駅に着いた。
今日は朝から色々な事があり過ぎたせいかいつもより足が重く感じる。

ブブブブ・ブブブブ・ブブー・ブー・・・・

まただ・・・ッたく!うるさいな、何度も何度も!多賀子の奴!!


「何だよ!!何度も何度も!!」

『どうした弘?何かあったのか?』

珍しく父からの電話だった。

「いや、何も・・」

『何もって声じゃあなかったぞ。多賀子さんと喧嘩したんだな。』

「そんなんじゃないよ、で、どうしたの?
パパこそ珍しいじゃないか電話してくるなんて。」

『んん・・どうなんだ?多賀子さんとは?うまくいってるのか?
今日、多賀子さんが来たぞ。』

「えっ?多賀子が?」
婚約期間が長いことに不満だった多賀子は父に会いに行ったらしい。
今日、会社を休んだのもそのためだったようだ。

『で?弘、お前はどうなんだ?』

「パパが急にいい返事をしなくなったから婚約期間が長くなっているだけで何も・・」
昨日から非現実的なことばかりを体験し考えるゆとりも気力も残っていなかった僕は、力なく適当に答えた。

『大丈夫か弘?
なんだ、そんなに元気がなくなるほど多賀子さんと早く結婚したかったのか?
パパは別に反対しているわけではないんだ。
けれど、この先、何があっても力を併せてやっていける相手なのか多賀子さんは?
大丈夫なんだな?』

「うん。そうだね・・」再び適当に返事をした。


話が決まるとその後は早かった。

僕と多賀子は一番近い日の吉日を選んで入籍をした。
翌月には1週間の予定で、新婚旅行を兼ねた挙式を海外で行う段取りもした。

しばらくはバタバタと雑事に忙しく自宅には寝に帰るだけの日々が続き、いつもの帰り道がいつもとは少し違っていたことに気付くのは後になってからだった。

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入籍を急いだため新居は決まっていなかったが、それでも姓が変わってからの多賀子は会うたび終始機嫌がよかった。
僕との入籍をこれほど喜んでくれるのならもっと早くすればよかったとすら思った。

「ねぇ、新居なんだけど、私はやっぱり山の手タワーヒルズがいいわぁ・・」

『ああ、そうだね。
今の僕の給料では無理だけど、一月500万くらいの家賃なら、親父に言えば出してくれるから、新婚旅行から戻ったら契約に行こう。』

「うん、貴方と結婚して本当によかったわ~」

多賀子が寿退職をした翌月、二人は挙式を兼ねた1週間の新婚旅行へと旅立って行った。



私は相変わらず休みの日でも毎日、会社の野良猫「ヒョウ」にせっせとご飯を運んでいた。

高橋さん達、今頃、式を挙げているころかなぁ・・
日本は日曜日だけど、ドバイは何曜日なのかなぁ・・・

「ヒョウ」にご飯を運んだ帰り道、電気店の店頭に置かれているテレビから臨時ニュースが流れていた。


『 国内最大手の高橋直販買が民事再生法を申請しました。
負債総額は業界史上最も大きい1839億円であることから、受け入れ先を探すのは難しく、事実上の破綻となりました。
繰り返しお伝えいたします。
国内最大手の高橋直販買が民事再生法を申請し・・・・』

「・・・・高橋さんの会社だ。・・・あっ、雪・・・」

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掌に舞い降りてきたその雪は、一人で過ごす私に温かいホワイトクリスマスをプレゼントしてくれた。

その年、私は退職した。夢を叶えるために・・・



------------------------- つ づ く 次回、最終話 ----------------------

◆まやかし9 最終話

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------------------ まやかし8 の つづき 9 最終話 --------- デス -------------


会社を退職してから既に4年が経過していた。

私は今、52階の窓から外を眺めている。

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この雑踏の中、皆、悲喜交々それぞれ生きているのだろう・・・
あのホワイトクリスマスの日に起きた高橋直販買の大型倒産事件から4年も経つが、その後の高橋と多賀子の行方は風の噂にも聞こえて来ない。
元気でやっているだろうか・・・




僕は新婚旅行中も時折聞こえる正体不明の声に悩まされていた。

ルル♪ ルル♪
遠くで電話のベルが鳴っている、あれも声と同じまやかしか・・・
いや、本物だ!

「Hello.」

『ご新婚旅行中に申し訳ございません。取り急ぎお伝えしたいことがございまして・・
弘坊ちゃま、お帰りになりましてもご実家やご自宅のアパートにはお戻りにはならず、当分はホテルか奥様のご実家などに身をお寄せください。」

『?どういうこと?』

「やはりお父様は何もお知らせにはなっていないようですね。
お父様の会社が破産いたしました。
それで、債権者の方が自宅や別荘、弘坊ちゃまのお住まいのアパートにまで押し寄せておいでです。
既に弘坊ちゃまのお住まいのアパート周辺の土地、建物は全て差し押さえになっております。
ご帰国になる頃には自宅や別荘、坊ちゃまのお住まいのアパートも差し押さえ手続きに入るかと。
ですから・・」

『わかった。とにかくすぐ帰るよ。』

「いえ、弘坊ちゃまは会社経営について何もご存知ありませんし、今残っている役員も坊ちゃまのお顔すら存じません。
今、お帰りになられても現場が混乱するばかりですので、ご帰国後、自宅やご実家には帰らずどこか別の場所に身を寄せていただくようにと、社長、いえ、お父様からのご伝言でございます。
では急ぎますので。」
一方的に電話は切れた。


すぐに帰国する必要はないとのことであったが、聞いたからには新婚旅行どころではない。
気が気でなかった僕は帰国し、自宅アパート周辺の様子を見に行った。

ホントだ・・・
父の会社が所有するあのアパートも既に立ち入り禁止テープが張られている。
僕の住むアパート前にも債権者だろう、数人のスーツ姿の男たちがたむろしている。
父の会社が、僕の継ぐはずの会社が、倒産?破産?
そんな・・・
弘坊ちゃまと呼ばれ続けたセレブの僕が一文無し?
そんな・・・
僕は目の前の現実を受け止めることが出来なかった。

父に言った。
『何でこんなに負債を背負い込んだんだよ!
僕が後を継ぐ予定だったのに、パパ、僕の人生をどうしてくれるんだよ!
恥ずかしくて会社にも行かれないじゃないか!』

父は言った。
「誰がお前に継げと言った?
これは私が一代で築きあげた宝物だ、どうしようが私の自由だ。
自分の人生、自分で切り開け。
もう十分、贅沢はしただろう・・
これからは多賀子さんと二人、力を合わせてやっていけ。」

多賀子との婚約後、急にいい返事をしなくなった謎がようやく解けた。
そして、今後、何があっても力を合わせてやっていける相手なのかと念を押した父の言葉がいつまでもこだましていた。

その後、文字どおり一文無しになった僕は、多賀子と二人でゼロからの出発を決意した。



『あの後、結局、高橋さんの持ってたアパートや所有するその近辺の土地建物は北白河グループが買い取って、今は、千鶴子さんの遺言どおり老人ホームになってるのよね。
だけどこうなること、千鶴子さんはわかってたのかなぁ?
ねぇ、ヒョウ、何か聞いてた?』

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「ンナァーン、ナァーン・・またそれ読んでるの?」

『うん、そうよ。
だって、これは、兵藤さん、じゃない、ヒョウ、貴方が千鶴子さんのデスクから見つけて、あのレストランテラスから投函してくれた、田中・・北白河千鶴子さんからの手紙だもの、私の大切な宝物よ。』

コンコン!
「先生、14時にお約束の依頼人の方がお見えになりました。」

『はい、今、行きます。いってくるね、ヒョウ♪』

「ニャーン・・どじるなよ!!」

     手紙を挟み、本を閉じた。
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    roppou_convert_20121121201406.jpg


トントン!

『お待たせいたしました。弁護士の久留美 千里 です。
          
       ・・・・あっ!!!・・』



---------------------- これにて一旦、お し ま い --------------デス------------


短編のつもりがこんなに回数を重ねてしまいました、、、飽きちゃいましたよね、、
ごめんなさい・・・
ホントは「・・あっ・・」のつづきも書こうかと思っていたのですが、一旦ここでおしまい。
にしました。。。。。
またそのうち続編でUPします。。。

面白くもなく、くだらない物に長時間お付き合いくださいましてありがとうございます。
今日より明日が明日より明後日がもっと良い日でありますように・・・
皆様に素敵なことがたくさん・・なくても一つはありますように、、(私にも^^)

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