神様がくれた休日~真話か偽話か空耳か~

フィクションともノンフィクションともつかない一人話を 時には まじない交え思いつくままツラツラと・・

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◆ 日向を 日陰を ◆

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旧盆を過ぎ、明らかに真夏の太陽とは違うその陽射しは、秋を迎える準備を着々と進めている。
木陰に入れば涼しくさえ感じる。

さぁ今日は何色のボールにしようかな。
公園の木陰のベンチに腰を下ろし、木箱の中を吟味していると、遠くから子供の声が聞こえてきた。

「じゃんけんぽん」
「グーリーコ」
「じゃんけんぽん」
「パイナツプル」

へぇー最近の子供もまだこんな遊びをするんだ。


~~~~~~~~~~~~~


僕に穢れがあると言うのなら、それを洗い流す雨が欲しい。

暑い日には日陰を、寒い日には日向を選んで歩きたい。

僕だって日陰を好んで生まれたわけではない。

それでも日陰にいろと言うのなら、僕は、その日陰に咲く花が欲しい。



「じゃんけんぽん」
「ケンケンパ・ケンパ・ケンパ・ケンケンパ」
「じゃんけん・・・」

「聡、早ようお帰り」

「かん太、また明日な、バイバーイ」

「うん、聡君、また明日ね」

聡の家は豪農で、代々庄屋の県内でも有名な名主だった。
筍の山を背に、小高い丘の上に朝日に向かって建つ聡の家は国道へ繋がる真っ直ぐに伸びる道の両側に広がる田畑が一望できる。
右側には筍山へ繋がる専用の私道、左側には分家へ繋がる専用の細い脇道の私道がある。
分家のある脇道を抜けると、車一台分がやっと通れるほどの、やはり国道へ向かう道にぶつかる。
その道は、丘と言うには高く、山と言うには低い“小高い山”の裾野を回るように通っている。
かん太の家は、その小高い山の裾野を半分程度回った道路傍に建っている。

家が近所だと言うこともあって、同じ小学校の聡とかん太は大の仲良しだ。
小柄でやんちゃな聡とは対照的に、聡よりも二周り程大きな体格のかん太は物静かで勉強もよくできる。
だが、
聡の両親はかん太と遊ぶことを嫌った。

『あの子とは仲良くしてはいけんと言ってるじゃろうが』

「なんでだよ!」

『あっちの山では遊んじゃいけん。道路が狭くて危ないじゃろ』


聡は調子がよかった。
学校で一緒に悪戯をしても、先生に叱られるのはなぜか、いつも決まって、不器用なかん太だった。

中学に上がる頃になり、県内一の高校へ進学をさせようと決めていた聡の両親は、学区域内の中学へそのまま上がると、学区制により県内一の高校への受験が出来ないからと、当時、PTA会長をしていた聡の父親が越境入学をさせようと届出をしていた。

聡とかん太は別々の中学校へ通学することになった。

別々の中学になったとは言え、家は近い。
以前のように頻繁に行動を共にすることはなくなったが、時折、会っては話をした。

越境で市内中心部の中学校へ通う聡は、担任の先生からはすっかりと田舎者扱いだった。
「まったく、田舎者のくせにって・・あの先生ったら頭きちゃうよ!」
聡のこんな愚痴もかん太はいつも優しく聞き役に回っていた。

「そんなに遊んでばぁおったら、〇〇高校へ行かれんようになるで」
「かん太君とは遊んじゃいけん!」
両親はますます口うるさく聡に注意した。


中学1年の夏休みも終わる頃、進学塾へ通っていた聡は、どうにも授業がつまらない。
「今日はサボっちゃえ!」
サボったのはいいが、行くところがない。
こんなに早く自宅へ帰ればサボったことがバレてしまう。

「どうしようかな・・かん太はどうしてるかな。かん太を誘って遊びに行くか」

塾へ通い始めてから夏休みの間、かんとは太しばらく会っていない。
かん太を誘い出そうと家へ向かっている時、聡は気付いた。

そういえば・・・

聡はかん太の家が、あの小高い山の裾野の道路傍の一角にある集落と言うだけで、実際の場所を知らない。
これほど長く付き合いのあるかん太の自宅を知らないのだ。
「今度会ったら聞いてみよう」
物事を深く追求しない聡は、かん太を誘い出すのを諦め、自宅裏の筍山へと一人、入って行った。


「あれ?先生?」

この筍山は、筍が採れるだけではなく、遺跡の発掘でも有名な山だ。
そこへ、越境で通学する聡を田舎者と馬鹿にしている中学校の担任教師が生徒数人を連れ立ち入っていた。

『聡君、どうして君がここに?』

聡は答えた。
「この山はうちの山です。僕の家はこの直ぐ下の角の家です」

『じゃあ、この裏山や下の畑も?』

「はい。国道に出るまで全てうちの山と土地です」

以降、担任教師の態度はガラリと変わった。

二学期が始まり、自転車通学をしていた聡は途中、タイヤがパンクし、帰りが遅くなった。
小高い山の裾野を回る道路は道幅は狭いが、近道だった。
「あの道は危ないから通っては駄目だ」
両親にそう言われていたが、既に日は落ち、暗くなっていた。
心配するから早く帰ろう。
聡は近道をして帰ることにした。

「かん太の家は確かこの辺りのはずだけど・・・」
小高い山の裾野沿いに通る幅の狭い道を走りながら、道路傍の集落に目を向けていたその時、
「痛ッ!!!」
自転車で走る聡を目がけ小石が飛んできた。
危ないなぁーどこらか飛んできたんだ?
また、2つ3つと聡を目がけ小石が飛んでくる。
田舎道のことだ。
外灯など殆どない。自分の自転車の灯りだけが頼りの真っ暗な道だ。
怖くなった聡はペダルを力一杯回転させ、一目散に自宅へと帰った。

無事、自宅へたどり着くやいなや聡は、今起きた出来事を両親に話した。
すると、両親は口を揃えて言った。

「だからあの道は通っちゃいけんのじゃ。山向こうへは行ったらいけんのじゃ。」

山向こう・・・?
聡は初めて聞く言葉だった。

それから数週間後、学校の帰り道、かん太と偶然会った。
「久しぶり!」
夏休みの間は塾通いをしていたため、しばらくかん太と会っていなかった聡は、
塾をサボったこと、筍山に遺跡を見にきた担任が、その山が聡の家の山だと知ると態度が急変しておかしかったことなど、夢中で話した。

一頻り話をした後、普段は無口なかん太が話はじめた。

『じゃあもう、聡は田舎者呼ばわりされなくなったね。
いつも聡は日の当たるところにいるもんな。
うらやましいよ。
聡のお父さんやお母さんが僕と仲良くすることを嫌がっていたの、
知ってたよ。
一緒に悪戯しても先生に叱られるのはいつも僕だったね。
それも僕があの集落の出だから仕方のないことだと思うよ。
それでも、学校で目の仇にされずに済んだのは、聡と聡のお父さんのおかげだよ。
仲良くしてくれてありがとな・・・

お父さんやお母さんにも感謝していたって伝えてくれよ。
5年前の台風被害で僕らの畑が全滅だった時、
僕らの集落にはどこも米や野菜を売ってくれなかった。
なのに、
聡のお母さんが米を、野菜をくれた。
お父さんが売るように皆に働きかけてくれた。
庄屋さんの言うことだからって、それ以降、皆が売ってくれるようになった。
今までありがとう』

「何で急にそんなこと言うんだよ!今までどおり仲良くしようよ!」
聡は泣きそうな声で言った。

『無理だよ。今はいいかもしれないけど大人になればきっと・・無理だよ。
それに、僕、引っ越すんだ』

「え?何処に?遠く?」聡は既に泣いていた。

『近いうちに挨拶にいくよ』
かん太は寂しげに笑いながらそう言うと振り返ることなくその場を去った。

聡はかん太の背中を、ずっと、ずっと、見えなくなるまでずっと見ていた。


聡、聡に小石を投げたのは僕の妹と弟だよ、ごめんね。

僕に穢れがあると言うのなら、それを洗い流す雨が欲しい。

僕だって暑い日には日陰を、寒い日には日向を選んで歩きたい。

聡、僕は差別のない国へ行くよ。


-------- 聡とかん太はそれきり会うことはなかった。


握っていたカラーボールにポツンと滴が落ちた。
あれ?雨???
私は慌てて、澄み切った美しい透明ブルーのカラーボールを木箱にしまい、木陰を出て空を見上げた。

空にはギラギラの太陽が眩しく輝いていた。


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◆ 日向を 日陰を~続編 1◆

Posted by 空耳ロバ on

ジーンジー・・
盛りを過ぎた蝉の声は、夏の終わりを嘆くかのように、どことなくもの悲しく聞こえる。

フィッチョン・フィッチョン・・・ツックツクツク・・
出番を待ちわびていたかのように声高に鳴くツクツクホウシは秋の訪れが近いことを教えてくれる。

すだれ越しにチラチラと写る影を見ながら木箱を開けると、
いつの間に入り込んだのか、カラーボールに混じり小さな小さな『ベーゴマ』が「ここにいるよ」と存在感を示している。
「ベーゴマなんて入れたかな??」


~~~~~~~~~~~~~

そろそろ行くよ・・


白い天井に薄茶色のしみ。

かん太の目に写った最初の光景だ。

「気づかれましたか?」

『僕・・・』

「先生呼んできましょうね」

三人部屋に一人で寝かされている。

どうして?
僕だけ?


「引っ越す」と聡に別れを告げたかん太は、その夜、父、母、妹、弟の家族5人で一家心中をしたのだったが、かん太一人だけが生き残ってしまったのだった。

なんで僕だけ・・・

かん太はその後、親戚と名乗る叔父に引き取られ退院した。
だが、そこでの生活も同じだった。
何人もの子供を抱え、生活は楽ではない。

「うちは貧乏なんじゃ!厄介者は働いて恩を返すほかないじゃろ」

「タダ飯食わせるために引き取ったわけじゃないわ!」

叔父に、叔母に罵られ、年長者のかん太は朝から晩まで働かされた。
義務教育である中学校すら満足に通うことも許されなかったが、中学校を卒業するまでと歯を食いしばり耐えた。

中学を卒業したかん太は
『このままでは一生、日陰の路地裏から出られない。』
叔父の家を飛び出した。


ヒッチハイクをしたトラックの荷台で一夜を明かし運搬船に乗り込み東京へ着いた。

東京へ来たからといって頼る知り合いがいるわけでもない。
どうしようか・・
まずは住み込みで雇ってくれるところを捜さなければ・・・

東京へ出てきて2ヶ月が過ぎていた。
浮浪者のような生活をしていたかん太に一人の男が声をかけた。
人恋しくなっていたかん太は、初めて会ったその男にこれまでの経緯を細かく話して聞かせた。

「おじさんの家は小さい町工場だけれど、おじさんの家に来るか。」

かん太は男に着いて行った。

おじさんの家は小さな工場が並ぶ都内の一角にあった。
奥さんと従業員2人の他は誰もいない小さな工場だ。
かん太は住み込みで働くことになった。

おじさんもおばさんも皆とてもいい人だった。
かん太はそれに答えようと、朝は誰よりも早く、夜は誰よりも遅くまで懸命に働いた。
工場に来てから既に半年が過ぎようとしていたある日・・
おじさんとおばさんに呼ばれた。

「かん太は本当に良くやってくれている。ありがたいのだけれど・・」
おばさんはここまで言うとおじさんの顔を窺った。

『これからも一生懸命働きますから。
住み込みが邪魔なら近くにアパート借りますから、
僕に悪いところがあるなら直します。
ですから、どうか、このまま働かせてください。お願いします。』
笑顔を絶やさないおばさんのいつもとは違う様子に、只ならぬ気配を感じたかん太は必死に懇願し、頭を下げた。

「何を言っているんだお前は!
お前をいつ、邪魔にした!誰が邪魔だと言った!
いいか、かん太、よく聞け。これからは勉強も必要な世の中だ。
高校へ行き、大学へも行かなければならない。
だから、少し仕事を休め。
好きな道を選ぶためにもまずは高校へ行け。そして大学へ行き好きな仕事を選ぶんだよ。」
おじさんは、そう言いながら全日制高校のパンフレットを差し出した。

「職業選択の自由」が大きくささやかれ始めた頃だった。


全日制をと勧めたおじさんだったが、かん太の強い希望で、工場を手伝いながら定時制高校へ通学することにした。
高校を卒業する頃、体調を崩したおじさんは町工場を閉めた。
おじさんは、就職を希望していたかん太に大学進学を強く勧め、大学へと進むことになった。
「これで、好きな仕事を選び、おじさんやおばさんに恩返しが出来る」
だが、
出身地・・
それは、大学へ進学し就職活動を始めたかん太に再び暗い影を落とした、

日本国憲法第22条 第1項で定められている、 経済的自由権の一つであるはずの 「職業選択の自由」をかん太は選択ができないのだ。

『好きな仕事を選ぶために大学へ進学したけれど、やっぱり・・駄目か・・
何処へ行っても日陰は日陰なのか・・本籍を抹消したい。戸籍を抹消したい。』

「かん太、ちょっとおいで」
おばさんに呼ばれた。

「何をそんなにクサッているの?
何でも思い通りに行かないのが人生ってもんよ。
あんたは自分で日陰を作っている事をそろそろ気付かないと・・」

“自分で日陰を作っている”その言葉にかん太はハッとした。

確かにそうだった。
意地悪をされれば、上手くいかなければ、とうに捨てたはずの出身地のせいにし、自分で日陰に身を置いていた。

「拾う神あれば捨てる神あり。世の中そう捨てたもんじゃないわよ。
ねぇお父さん」

その頃、横になっている時間の多かったおじさんに声をかけた。

「あぁそうだとも、かん太、私達だって全てが上手くいっていたわけではない」そう切り出したおじさんは小さい頃からの話をかん太に聞かせた。

「どうだろう、かん太さえよければそろそろ私らの息子になってくれないか。
そして好きな仕事を選んで、これからは好きなことをして生きて行くんだよ」

養子縁組により新しい戸籍、新しい苗字になり、何の弊害も無く職業選択の自由の機会与えられたかん太だったが、大学を卒業後、かん太は自ら小さな町工場の会社を起こした。

かん太の会社はその頃の好景気の波に乗り、瞬く間に急成長した。

借地に住んでいた養父母にも立派な家を贈ることが出来た。

『まだまだ行けるぞ』
かん太は膨大な敷地を購入し事業を拡張しようとしていた。

「かん太、ちょっとおいで」

「?」あの時と同じだ。
違うのはおばさんがお母さんに変わっている事だけだ。

茶の間に行くとお父さんも座っていた。

「かん太、よく聞け。」

「?」これもあの時と同じだ。

「事業が上手く言っているのは父さんも嬉しいが、このまま続くと思うな。
好景気は間もなく崩れる。
今持っている株や土地を手放せ。事業を拡大しては駄目だ。
かん太、いいか、欲は損の始まりだ。
もう少しというところで止めておかなければ、大きなしっぺ返しがくる。
明日にでも売ることだ!」

養父はそれだけ言うと、また横になった。

直後、バブル経済は崩壊した。

----------つ--づ--く---立て続け投稿します。--次回完結デス----------

◆ 日向を 日陰を~続編・最終章◆

Posted by 空耳ロバ on

----------「日向を 日陰を」 続編1のつづき 最終話 デス-------------


かん太は捨てたはずの、二度と戻らないと決めたはずの故郷の地に立っていた。


養子縁組により姓も戸籍も変わったかん太は、妻も持ち、息子にも恵まれた。
バブル経済は崩壊したものの、養父母の助言により、事業拡張をせず、持っていた土地や株券の殆どを売りに出したかん太は、寸前のところで大損を免れ、今や巨万の富を得ていた。

十数年前に妻を病気で亡くした後は、会社経営は息子に任せ、かん太は会長とは名目だけのカナダと日本を往復する隠居生活を送っていた。


養父母を見送り、妻の介護が終わり、会社は息子に任せたかん太であったが、落ち着く時間が増えると、昔のことが思い出され、聡に無性に会いたくなった。

聡は東京の大学へ行き、長男であるにもかかわらず後を継がずに東京で大手企業に就職し、都内の高級住宅地に一軒家を構えたと、噂は聞いていた。
いかにも自由奔放な聡らしい生き方だ。

聡宛に出した手紙三通が、もう10年近くもかん太の手元にある。
「あて先不明」で戻ってきたのだ。
聡はどうしているだろうか・・・
会いたい。
会って話したいことがある。

かん太も既に78歳である。
きっと、聡も定年後は故郷に戻ったのだろう。
聡もいいジジィになっているだろう。。。

かん太は聡に会うためカナダから帰国し、宛て先不明で戻ってきた三通の手紙を手に、65年振りに故郷に戻ってきたのだ。

65年前、一家心中で亡くなった両親、妹、弟が眠る粗末な合同墓地への墓参りを済ませ、その足で聡の実家に向かった。
変わっていなかった。
門番の住む家がそのまま塀となっている立派な外構、高台にある聡の実家を見るとそのままあの頃に戻ったようだった。

門前まで来たかん太は表札を見た。
聡のお父さん、お母さんの名は既に消え、“邦夫“と言う名の表札になっていた。
邦夫は聡の弟の名だ。
弟の邦夫とは殆ど面識のないかん太だったが、その名から、
どうやら跡継ぎとなったのは弟の“邦夫”であることが理解できた。

門前まで勇んで来たはいいが、いざ、門をくぐろうとすると、やはり気後れしてしまう。

さて、どうしたものか・・・

考えた末、
かん太は、聡の住む東京の住所宛に出した宛て先不明で戻ってきた三通の手紙を大きな封筒に入れ、
東京の滞在先のホテルを記し、今月25日までは滞在しているので都合がよければ連絡が欲しいとメモを同封し、聡の実家のポストへ投函した。 

かん太は東京のホテルへ戻り、聡からの連絡を待った。

聡からの連絡はとうとう来なかった。

『そうだな・・あの時、今までどおり仲良くしようと言った聡に
「今はいいけれど大人になれば無理だ」と言ったのは私だった。
泣きながら僕の背中を見つめていた聡を振り返ることもせずに立ち去ったのは私の方だったな。
養子縁組で姓が変わった、戸籍も変わったからと言って、今更、会いたいだなんて虫が良すぎる話だったな・・』

かん太はホテルをチェックアウトし迎えの車に乗り込んだ。

「失礼いたします」
ホテルのフロントマンが車に駆け寄ってきた。

「只今、メッセージが届きました」
フロントマンはそう言って、手紙を渡した。

差出人は記憶のない女性の名だが、姓は聡の苗字だ。
その手紙は聡の妻からだった。

手紙には、現在は別の場所に引っ越したこと、聡は既に27年前に「脳腫瘍」を患い51歳と言う若さで亡くなったこと、聡が時々、かん太の話をしていたこと、聡の墓の場所などが書かれていた。

かん太は、途中、涙で何度も読めなくなりそうになったその手紙を握り締め、
「帰国便を変更する。このまま静岡の花霊園に向かってくれ。」
そう運転手に伝えるのが精一杯だった。


かん太は聡の墓の前に呆然と立ちすくんだ。

「会長、ご体調でもお悪いのですか」

『いや、少し一人にしてくれないか』

「承知しました。帰国の便は最終便に変更いたしました」



同じ東京で何十年も暮らしていながら、なぜ、もっと早く連絡しなかったのか・・・
なぜ、あの時、振り返り聡に謝らなかったのか・・・
聡は覚えているか・・・


「次ぎはかん太の番だぞ」

それっ!!!

「なんんだよ、かん太、その駒。ずるいぞ」

その当時、ベーゴマを使った駒遊びが流行っていた。
ベーゴマはメッキで出来ている小さな駒だったが、かん太の家ではメッキのベーゴマを買う余裕などなかった。
木を削った手製のベーゴマを使うかん太に聡は「ずるい!」と言っては、いつもベーゴマを貸してくれていた。
ある時、聡のベーゴマが一つなくなった。
それはベーゴマの中でも聡が一番大切にしている、一番綺麗な、一番格上のベーゴマだった。
聡は言った。
「まぁいいや、また買ってもらおう」


ベーゴマを盗ったのは僕だ。
何でも手に入る聡が羨ましかった。
聡がどれほどあのベーゴマを大切にしていたのか僕は知っていた。
聡は僕が盗ったこと気付いてたんだよな。。。
だから探すこともせずに「また買ってもらう」そう言ってくれたんだよな・・

ずっと返そうと思っていたんだ。

かん太は、ベーゴマを取り出し、墓に供えた。

その小さなベーゴマの裏側には小さな小さな文字で「サトル」と記されていた。

「会長、そろそろ空港へ」

『聡、そろそろ行くよ・・・』

かん太は車の後部座席から振り返り、
日当たりの良い聡の墓を、ずっと、ずっと、見えなくなるまでずっと見ていた。


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貴重なお時間、長々とお付き合いいただきありがとうございました。
「日向を 日陰を」完結です。

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